N[エヌ]について

N[エヌ]発行のオンラインマガジン|N-gene[エヌジン]
制作・編集/ナノグラフィカ

なかがわよしのの400字

休載のお知らせ

2010.08.28更新

 

病気により
2、3ヶ月休載させてください。
御用の方はツイッターで
メッセージください。
病状により返信できない場合があります。
どうかご了承ください。

http://twitter.com/nakagawayoshino


なかがわよしの拝

ゆ~つめうつつ #134

2010.08.27更新

 

「ホント、何もわかってない」

呆れたといったふうに
ゆかりはため息をついたあとに言う。

「わかってくれなんて
図々しいにもほどがある」

ばたんと週刊誌を閉じて俊太郎をにらんだ。

「まだ誰かがなんとかしてくれるって思ってる。
黙々と頑張っていれば幸せになれるとでも?
見ている人はその姿を見ていて
助けてくれると思ってたんだろ?
そんな甘くないんだよ。
自分のことは、自分で、どうにか、してください。
私も亮太もそんなこと重々わかっていて、
必死に生きてるんだ。
足引っ張らないでよ」

「助け合っていくのが家族でしょう」

「あなたをもう家族とは思っていません。
よく言っても、せいぜい、お荷物」

その言葉に俊太郎はさすがに怯んだ。
涙が出そうになる。
ゆかりは俊太郎から視線を離さなかった。
今にも襲い掛かりそうな目で
唇をわなわなさせて睨んでいた。
かと思ったら急に笑顔になって言うのだ。

「あ、だからもう別れたいの」

かつては確かに愛した、かわいい笑顔で。
どうしてこんな関係になってしまったのだろうと
俊太郎は心で嘆いた。
だが、ひとつだけはっきりとわかっていることがある。

「うつになったのは、お前のせいだ」

俯いたままで俊太郎は吐き出す。
その忌々しい呪文は赤黒い血のように
ぼたっと机に垂れ落ちた。(続)

ゆ~つめうつつ #133

2010.08.26更新

 

「先生がうつ病は
脳の病気だと言っていただろう。
脳内物質が足りなくなるから
気分が落ち込むんだ」

「あなたはその診断に甘えてる。
自分を変えようと何か行動したの?」

「まだ休息が必要なんだ。
そういう段階じゃない」

「まだ休み足りないってどういうこと?
私の方が稼いでいるからって甘えないで。
亮太が球団と契約したら、
そのお金食い潰す気でしょう。
私たちに寄生するのはやめて。
自分の人生なんだから
自分でなんとかするっていう
そういう気持ちを見せてほしい」

俊太郎は缶ビールを握り締める。
パキパキとアルミが弾ける音。

「何もわかってない。
うつ病のこと、
もっとわかってくれているんだと思っていた」

「時間と休息が必要なんでしょう?
薬で治るんでしょう?
がんばれって言っちゃいけないとか、
それくらいはわかってる」

「じゃあ、なんで見守ってくれないんだ」

「それが甘えてるって言ってる」

「君らの協力なしには、」

「それが根本的に間違ってる。
自分でなんとかしようと思わないことがおかしい。
そんなあなたを誰がサポートしたいって言うの?」(続)


ゆ~つめうつつ #132

2010.08.25更新

 

「別に今すぐに離婚なんて言ってないでしょう?
亮太のこと考えてないわけないじゃない。
なんでも病気のせいにする
自分勝手なあなたとは違うんだから」

俊太郎は残りの発泡酒を飲み干し、
言葉途中で席を立つ。
冷蔵庫から缶ビールを取り出した。

「それ、私の」

「だから、どうした」

普段、ゆかりが気を利かせて
俊太郎の飲み物を買ってくることはないし、
その反対もあり得なかった。
だから暗黙の了解で
お互いにお互いの所有物を把握していたから、
間違っても相手の物を手にすることはなかった。
「あとで買ってくるから、
ちょうだいよ」なんていうのも、まずない。

俊太郎は何食わぬ顔で元の椅子に座り、
勢いよくビールを飲んだ。
あまりアルコールを飲める方ではなかったが、
飲まずにはいられなかった。

「酔っ払わないうちに話さないとね」

わざと皮肉っぽくゆかりは言う。
が、俊太郎はそんなものにはすっかり慣れていた。

「うつ病って、甘えでしかないと思わない?」(続)


ゆ~つめうつつ #131

2010.08.24更新

 

俊太郎が帰ったのは22時すぎだった。
週刊女性誌を読むゆかりが
ぽつんと食卓に座って待っていた。

「亮太は?」

「2階」

感情の交錯がない会話が交わされる。
俊太郎はソファーに座りテレビをつける。
ぱちぱちぱち。
スポーツニュースはまだやっていない。
チャンネルをNHKにした理由はない。
ただなんとなく。
キッチンの鍋の中は肉じゃがだった。
ガスコンロをつける。
中火。
冷蔵庫から発泡酒。
ビールは週に1度の贅沢。

「ねえ」

俊太郎は身構えた。
発泡酒のプルタブを引く指を止める。
一瞬世界中の音が消えて
時間すらも止まった気がした。
耳鳴りがする。
鋭く俊太郎の耳を塞ぐ。

「離婚する。
この間、『別れるか?』って訊いたでしょ」

「ああ」

俊太郎は諦めたように食卓に座った。
ゆかりの斜向かい。
彼女の方に身体は向けなかった。
発泡酒を開けて一気に3分の2ほど飲んだ。
沈黙、そして沈黙。

テレビでは川端康成と三島由紀夫が対談している。
俊太郎もゆかりも
まったくそれを見ていなかったが。

「それにしたって、なんで今日なんだ。
亮太の大会だって近いっていうのに」(続)


ゆ~つめうつつ #130

2010.08.23更新

 

Re;

欣治の親のことは、俺は他
人だからどうにもすること
はできないが、同情するし、
もしオレにできることがあ
れば言ってほしい。オレん
ちも似たようなモンだから。
でも、レギュラー争いに興
味がないなんて言う欣治に
はがっかりした。そんなヤ
ツにオレのボールを受けて
ほしくないし、相談なんて
のりたくもしたくもない。
甘すぎると思う。誰かを蹴
落としてまでレギュラーに
はなりたくないって言うん
だろ? お人好しもいいか
げんにしろ。社会のことと
か全然わかんねーけど、欣
治みたいにやさしすぎると
生きていけないはず。いい
人ほど利用されて付け込ま
れて使い捨てにされるんじゃ
ないかと思うよ。それでも
欣治はへらへらしてそう。
なんなんだよ、それって。
なんのために野球やってる
んだ? お前いつもいつも
「モテたい」とか言ってる
けど、レギュラーの方がモ
テると思うけどね。そんな
お人良しじゃ、好きな女で
すら守れないけどな。守る
どころか巻き添えにして不
幸にする。だからオレもそ
んなお前とバッテリーと組
むのはお断りです。昼飯も
いっしょに食べたくない。
出直して来い。(続)

ゆ~つめうつつ #129

2010.08.22更新

 

欣治からのメールはこんな内容だった。

「しつこいけど、昼飯いっしょ喰わねえ?
かあちゃんが離婚するって言い始めた」

どう返事していいのかわからず、
一文字も打てずにいる。

正直、ひどい親だと思った。
県大会目前で、
しかもレギュラー争い真っ只中の息子に
心配をかけるなんてサイテーだ。
だから金持ちは嫌だ。
自分勝手だ。
てめえのことしか考えていない。
自分の親を棚にあげて、そんなことを口はできないが。
だけれども、自分の親は違うのだと最終的には思いたい。
自分の親は立派な大人なんだと。

『テリーちゃん』は結婚していないらしい。
いや、正確には結婚していたという噂。
娘がいて、すごく美人で
ミス○○みたいな賞をもらったそうだ。
そういえば、教壇で笑う『テリーちゃん』はかわいい。
誰も話を聞いていないが。

返信できずにいたら、また欣治からメール。

「親が離婚したら野球どころじゃない。
まあ、レギュラー争いには鼻から興味ないけど」

そのメールを見て
亮太はむしょうに腹が立った。(続)


ゆ~つめうつつ #128

2010.08.21更新

 

1時間目の授業は世界史で、
教壇に立つその教師は生徒たちから
『テルオちゃん』と呼ばれていた。
『テルオちゃん』は初老のベテラン教師で、
臨時職員だった。
『テリーちゃん』の名前の由来は
テリー伊藤の本名・輝夫からで、
『テルオちゃん』は斜視だった。
本家のテリー伊藤はもうロンパっていないが、
彼が斜視矯正手術をする前から
『テルオちゃん』は『テルオちゃん』と呼ばれていたので、
代々受け継がれて『テルオちゃん』という愛称なのだった。
『テルオ』でもよさそうなものだが、
『テルオちゃん』はちゃん付けを
したくなるような人柄だった。
『テルオちゃん』は
生徒に愛されているに違いはないけれど、
『テルオちゃん』の授業を
まともに聞く生徒は数少ない。
亮太もまともに聞かない方の一人で
授業中、その日は
ケータイでメールのやりとりをしていた。
欣治とだ。
欣治は窓際の一番前の席にも関らず、
堂々とメールしていた。
『テルオちゃん』はおそらく気づいているが注意しない。
なぜだが嬉しそうに
「ベルサイユのばら」について熱く語っている。(続)

ゆ~つめうつつ #127

2010.08.20更新

 

「ホントはしたんだろ。テレるな、テレるな」

「お前、朝からうざいんだけど」

「そんなこと言わないのー」

亮太の左腕にしがみついて、甘える欣治。
あまりに激しく抱きつくので
亮太は弁当の入った巾着を落とす。

「ヨリ弁になっちまうじゃねえかよー」

「そーいえば、最近、部室で弁当喰わないのな」

「どこで喰おうが勝手だろ」

亮太は巾着についた埃を払い、
欣治を無視して階段に向かう。

手すりに寄りかかって談笑するカップル。
『階段は右側通行』の貼紙。
ホームルーム開始5分前のチャイム。

「りょーたん待って」

「りょーたんってのやめろよ」

「じゃあ、りょーちん!」

亮太は逃げるように走って階段をあがる。
校内は賑やかで笑い声が反響する。
誰ひとりこの世の不幸を知らないみたいに。

「今日さー、昼飯いっしょに喰おーぜ」

「嫌だね」

「まみたんといっしょに食べるのかよー?」

「なんなんだよ、そのテンション」

「あたし、さみしいの」

アイドルでもやらないようなぶりっこで
欣治は目を潤ませる。

「キモい」

振り向きざまにそう言い放って、
亮太は欣治を置き去りにした。(続)


ゆ~つめうつつ #126

2010.08.19更新

 

スノコの上を駆けて来る音がして嫌な予感がした。
多分、欣治だろうと推理した。
朝から迷惑なヤツといえば欣治しか思いつかない。
自分の下駄箱の前で靴を脱ごうとしたら、
いきなり後ろから抱きつかれた。

「昨日、チューした?」

やっぱり欣治だった。
亮太は「やめろよ」と苛立ちながらも、
なぜか笑顔になってしまう。

「真美とチューしたのかって訊いてるのー」

耳元で欣治が嬉しそうに囁く。

「真美って言うな。
俺でさえ、そんなふうに呼んだことない」

おんぶするようにのしかかっていた欣治を払いのけて、
サンダルに履き替える。

「うそつけよー。
ホントは『まみたん』とか『りょーちん』とか
呼び合って甘えてるんじゃないのー?
ひゅーひゅー」

「ひゅーひゅーって言葉使う人、
初めて見た」

「ムシムシー。で、チューした? チュー」

「してねえ。てか、声デカイ」

女子たちの「おはよー」や
「ねむー」と言う言葉がぱちんぱちんと弾んでいる。
校内放送で誰かが呼び出される朝。
欣治のテンションが異様に高い。(続)


ゆ~つめうつつ #125

2010.08.18更新

 

胸に顔を埋める鷺宮に
友佳子は「小さくてごめんね」と言い頭を撫でた。
鷺宮は十分に満ち足りていた。
だが、虚しくもあった。
そんな充足感はすぐに消えてしまうから。
一瞬、眼球の裏に痛みを感じる。

「大丈夫?」

鷺宮の顔を友佳子が覗き込む。

「少し頭痛がしただけ」

暗くてよく見えないが
友佳子の目は充血していた。
首を絞めたせいだろう。
友佳子が鷺宮の背中にキスをして
そのまま寄り添った。
「安心する」とつぶやく。

「この満たされた気持ちが
ずっと続けばいいのにっていつも思うよ」

「……私はこんな気持ちのまま、
死んじゃったらどんなにいいかって、いつも思う」

また頭痛がした。
同時にみぞおちのあたりに鈍痛を感じる。
いつだってそうだ。
このあとどうしようもない虚無感に襲われるのだ。
誰を愛しても何度身体を重ねても満たされない。
泣きたくなる。
鷺宮は仰向けになって見えない天井を見つめた。
精液の重い匂いがどろりとたちあがる。
「こえーなー」とつぶやいて、
右手で両目を覆った。(続)


ゆ~つめうつつ #124

2010.08.17更新

 

不思議と恐怖はなかった。
首を絞めて何人もの女を殺した男が
アメリカかどこかにいたことを、
友佳子は思い出す。
慣れた男に殺されるのだとしたら
怖くないのかもしれないと思った。
理由はない。
そう望んだのかもしれない。
苦しくはなかった。
鷺宮の絞め方はソフトで温かかった。
次第に意識が遠くなっていくのがわかった。
立ちくらみのあの感覚に似ていた。
目の前がパチパチと赤く弾けていく気がした。
視界が狭くなる。
鷺宮の顔は暗くて見えないが、
声を漏らしていたので嬉しかった。
このまま消えたいとずっとずっと遠くで思った。
だけれども、消えることはできなかった。
鷺宮が手を離した途端、
酸素が脳内に流れ入るのをはっきりと感じた。
それもまた快感で大きな声が出てしまった。
激しく呼吸をする。
激しく声を出す。
鷺宮がもう終わりそうだと告げた。
その直後、鷺宮のそれが
自分のなかで痙攣するのを受け止めた。
身体中がシビレている。
足先が震えて止まらなかった。
鷺宮が胸に顔をぐりぐり押し付ける。
「まゆげ痛い!」と笑った。(続)

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プロフィール

なかがわよしの

長野市在住の一労働者。年齢は30歳付近か。経歴は明らかでないが、かつて東京・長野にて雑誌編集に携わり、現在はやはり紙関係の仕事をしているらしい。重度のロックファンで、渋い音楽イベントをオーガナイズしていた事もある。
…原稿用紙一枚の上に浮かんでは消える儚いドラマをお楽しみ下さい。(文・N編集部)




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